吸入型インスリンとは
吸入型インスリンは、従来の皮下注射によるインスリン投与に代わる、吸入デバイスを使用した新しいインスリン療法です。主に食後高血糖のコントロールを目的として速効型インスリンとして使用されます。この治療法は、インスリン注射に抵抗感のある患者や、注射器具の管理に難しさを感じる患者にとって魅力的な選択肢となっています。
吸入型インスリンは肺胞から血液中に吸収される仕組みで、速やかに作用を発揮します。現在、市場に出回っている製剤の一例として、**アフレッツァ(Afrezza)**が挙げられます。この製剤はFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認され、2020年代以降、徐々に注目を集めています。2024年現在日本ではまだ認可されていません。
糖尿病の早期発見方法と予防法
吸入型インスリンの特徴と利点
速効型インスリンとしての特徴
- 即効性: 吸入型インスリンは肺胞から直接血中に吸収されるため、皮下注射の速効型インスリン(例:リスプロやアスパルト)よりも迅速に作用を開始します[1]。
- 短時間作用: 食後血糖をターゲットとした短時間作用型であり、持続型インスリンとの併用が推奨されます。
利点
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非侵襲的投与
注射の痛みや恐怖感がないため、患者の治療継続性を向上させる可能性があります。 -
簡便性
ポータブルな吸入デバイスを使用することで、外出先でも手軽に使用できます。 -
患者満足度の向上
治療抵抗感の軽減や生活の質(QOL)の向上が期待されます。
肺を経由する吸収の特性
吸入型インスリンは、肺胞の広大な表面積と豊富な毛細血管網を利用して、迅速かつ効率的に吸収されます。この特性により、インスリンのピーク作用が早く到達するため、食後高血糖の管理が容易になります。
吸入型インスリンの課題
使用制限
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肺機能の影響
肺機能が低下している患者(例:慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息)には使用できない場合があります。また、使用前に肺機能検査(スパイロメトリー)が必要です。 -
吸収量の個人差
吸入効率や吸収量は、患者の肺の状態や吸入技術に依存するため、血糖コントロールの個人差が大きい可能性があります[2]。
効果の持続時間
吸入型インスリンは速効型として特化しているため、持続的な血糖コントロールを行うには基礎インスリンの併用が必要です。
コスト
吸入デバイス自体のコストが高額であり、患者の経済的負担が増加する可能性があります。
長期的な安全性
吸入型インスリンの長期使用による肺への影響や、発がん性リスクについてはまだ十分なデータがありません[3]。
臨床試験と効果
吸入型インスリンに関する臨床試験では、その有効性と安全性が確認されています。
食後血糖コントロールへの効果
ある研究では、吸入型インスリンが皮下注射型速効型インスリンと同等の食後血糖降下効果を持つことが示されました[^4^]。特に、食後30分以内の血糖上昇を抑える効果が注目されています。
HbA1cの改善
吸入型インスリンを使用した患者では、皮下注射型と同程度のHbA1c改善が報告されています。ただし、患者の吸入技術や肺機能に依存するため、適切な指導が重要です。
日本国内での状況
現在、吸入型インスリンは主にアメリカなどで使用されていますが、日本国内での導入はまだ進んでいません。これには以下の理由が挙げられます:
日本国内の規制基準の違い。
医療現場での肺機能検査体制の整備不足。
吸入型インスリンの経済的な負担。
今後、日本国内での普及には、さらなる研究とインフラ整備が必要とされています。
当院での対応
当院では、糖尿病治療法に関する情報提供を行っております。また、患者様一人ひとりに適した治療法を検討し、ライフスタイルや治療希望に応じた最適な治療プランを提案しています。また、なるべくインスリンからの卒業を目指した内服薬による治療を主としております。お気軽にご相談ください。
参考文献
- Heinemann L, et al. "Inhaled insulin – does it become reality?" Journal of Diabetes Science and Technology, 2015.
- Patton JS, et al. "Aerosolized insulin: a new way of delivering insulin." Diabetes Technology & Therapeutics, 2004.
- Skyler JS, et al. "Inhaled insulin: an overview." Diabetes Technology & Therapeutics, 2009.
- Bode BW, et al. "Efficacy and safety of inhaled insulin compared to subcutaneous insulin: a meta-analysis." Diabetes Care, 2017.
院長プロフィール
山田朋英(Tomohide Yamada)
蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニック 院長
- 学歴: 東京大学大学院博士課程修了(医学博士)
- 職歴:
- 英国マンチェスター大学・キングスカレッジロンドン 客員教授
- 糖尿病および甲状腺疾患の専門医として19年以上の臨床経験
- 受賞歴: 国内外での研究成果に基づく数々の賞
- 専門分野: 糖尿病、甲状腺疾患、内分泌疾患に関する診療および研究
- 趣味: 仕事
当院では、糖尿病治療の最新情報を患者様に提供し、個別化されたケアを通じて生活の質を向上させることを目指しています。お気軽にご相談ください。