インスリン治療とは
糖尿病は、診断された時点ですでにインスリン分泌能が健康な人の約半分まで低下しているという調査結果が報告されています[1]。特に、2型糖尿病では進行とともにインスリンを分泌する膵臓のβ細胞機能が徐々に失われていきます[2]。
インスリン治療は、糖尿病、特に1型糖尿病や進行した2型糖尿病において、血糖をコントロールするための基本的な治療法です。インスリンは、体内で血糖値を調節する重要なホルモンであり、インスリンが不足する、または適切に作用しない場合、体の様々な器官に悪影響を及ぼします。インスリン治療は、この不足を補うことで合併症を防ぎ、生活の質を向上させる目的があります。
しかし、患者様の中には、インスリン注射を続けることに対して「やめたい」と感じる方もいらっしゃいます。その理由はさまざまであり、心理的負担や日常生活への影響が原因となることが多いです。
膵β細胞機能を守り、インスリン卒業を目指しましょう
インスリン治療は血糖値を正常に保つために重要な役割を果たしますが、生活習慣の見直しや他の治療法を適切に組み合わせることで、インスリンからの卒業(離脱)を目指すことも可能です。以下の方法を通じて、膵β細胞の機能を守りながらインスリン依存から脱却する可能性を広げることができます。
1. インスリン分泌の指標を用いた継続的な評価
膵β細胞のインスリン分泌能を測定する指標として、Cペプチド(C-peptide)が有用です。Cペプチドは、体内でどれだけのインスリンが分泌されているかを間接的に示す指標であり、治療の効果や膵機能の維持状態を把握するのに役立ちます。
- 空腹時Cペプチド値:膵β細胞の基礎的な分泌能力を評価します。
- 食事負荷後のCペプチド値:食後のインスリン応答を測定します。
これらのデータをもとに、インスリン治療の必要性を再評価し、治療プランを調整することで、インスリン量の減量や離脱を目指すことができます。
2. ライフスタイルの改善
糖尿病治療において、食事療法や運動療法は膵β細胞機能を維持するうえで極めて重要です。以下のポイントを実践することで、治療の効果を最大化できます。
- バランスの良い食事
血糖値の急上昇を抑える低GI食品や適切なカロリー制限を意識します。 - 適度な運動
ウォーキングや筋力トレーニングを取り入れることで、インスリン感受性を向上させます。
3. 他の治療法との併用
最近では、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬などの新しい薬物治療が注目されています。これらの治療法をインスリン治療と組み合わせることで、膵β細胞への負担を軽減し、インスリン量を減らす効果が期待できます。
インスリン治療を前向きに捉えるために
インスリン治療が必要な期間は患者様ごとに異なりますが、これは膵β細胞を守るためのサポート期間と考えることができます。血糖コントロールが改善すれば、徐々にインスリン量を減らし、最終的に卒業を目指すことも可能です。適切な治療と膵β細胞機能の定期的な評価を行うことで、治療のゴールを見据えた計画を立てることができます。
インスリンをやめることで起こり得るリスク
血糖コントロールの悪化
インスリンをやめると、血糖値が急激に上昇し、高血糖状態(糖毒性)や急性合併症(糖尿病性ケトアシドーシス)を引き起こす可能性があります。
慢性合併症のリスク増加
- 高血糖状態が続くと、神経障害、網膜症、腎症、動脈硬化などの糖尿病の合併症が進行します。
- 特に長期にわたる高血糖は、生活の質を大きく損なう恐れがあります。
低血糖のリスク
インスリンをやめた結果、誤った代替治療や食事療法が行われた場合、逆に低血糖が引き起こされるリスクがあります。
インスリン卒業に向けた当クリニックでのサポート
当院では、患者様の治療目標やライフスタイルに合わせて、最適な治療プランを提案します。
- Cペプチド測定を用いた膵β細胞評価
現在の膵機能を正確に把握し、治療方針を調整します。 - 個別の治療計画
インスリン治療だけでなく、食事療法、運動療法、新しい薬物治療の併用など、患者様に合ったプランを提供します。 - 定期的なフォローアップ
継続的な血糖値測定や検査により、治療の進捗を確認しながら最適なサポートを行います。
糖尿病は個々の患者様にとって異なる経過をたどります。当院の専門医が患者様一人ひとりの状態に寄り添い、インスリンからの卒業に向けた治療を全力でサポートいたします。
まとめ
「インスリンをやめたい」と感じる患者様にとって、適切な治療と膵β細胞機能の評価を行うことが重要です。インスリン治療は膵β細胞を守り、合併症を防ぐための大切な手段ですが、適切なライフスタイル改善や新しい治療法との組み合わせにより、インスリンからの卒業を目指すことも可能です。
まずは現状を正確に把握するため、ぜひ当院にご相談ください。当院では、インスリンからの卒業・離脱に向けた取り組みを行っております。また、最大限内服薬による治療を行ったおります。糖尿病治療を通じて、より良い未来を一緒に目指しましょう。
参考文献
- Defronzo RA, et al. "Beta-cell dysfunction – a key contributor to the progression of type 2 diabetes." Diabetes Care, 2013.
- Jensen CC, et al. "C-peptide as a marker of beta-cell function." Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, 2002.
院長プロフィール
山田朋英(Tomohide Yamada)
蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニック 院長
- 学歴: 東京大学大学院博士課程修了(医学博士)
- 職歴:
- 英国マンチェスター大学・キングスカレッジロンドン 客員教授
- 糖尿病および甲状腺疾患の専門医として19年以上の臨床経験
- 受賞歴: 国内外での研究成果に基づく数々の賞
- 専門分野: 糖尿病、甲状腺疾患、内分泌疾患に関する診療および研究
当院では患者様のニーズに寄り添いながら、最新の知識と技術を活用して、糖尿病治療の新しい選択肢を提供しております。お気軽にご相談ください。