バセドウ病のブロック補充療法について

はじめに

バセドウ病は、甲状腺が過剰にホルモンを分泌する自己免疫性疾患であり、主にTSHレセプター抗体(TRAb)が甲状腺を刺激することで発症します。治療法としては、抗甲状腺薬による治療、放射性ヨウ素療法、外科的手術などが一般的です。その中でも、抗甲状腺薬を用いるブロック補充療法(Block and Replace Therapy, BRT)は、特に注目される治療戦略の一つとして知られています。

ブロック補充療法は、抗甲状腺薬で甲状腺ホルモンの合成を完全に抑制し、その上で不足した甲状腺ホルモンを補充するという方法です。本記事では、ブロック補充療法の効果、問題点、臨床的な応用、および当院の治療方針について詳しく解説します。

バセドウ病治療薬「メルカゾール」とは

ブロック補充療法の基本的な仕組み

2.1 ブロック補充療法の概要

ブロック補充療法では、以下の2つの薬剤を併用します:

  • 抗甲状腺薬(メチマゾールまたはプロピルチオウラシル)
    甲状腺ホルモンの合成を完全に抑制します。
  • 甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン)
    抗甲状腺薬によって抑制された甲状腺ホルモンを補充します。

この治療の目的は、甲状腺ホルモン濃度の安定化を図ることで、症状のコントロールを迅速かつ効率的に行うことにあります。

2.2 通常療法との違い

従来の抗甲状腺薬治療(タイトレーション療法)では、甲状腺ホルモンの産生を部分的に抑制しながら、適切なホルモン濃度を維持します。一方で、ブロック補充療法では、甲状腺ホルモン産生を完全に抑制したうえで外部から補充するため、ホルモン濃度の変動をより抑えることが可能とされています。

ブロック補充療法の効果

3.1 甲状腺ホルモン濃度の安定化

ブロック補充療法は、タイトレーション療法に比べて甲状腺ホルモン濃度の変動が少ないと報告されています[1]。これにより、症状の改善が迅速かつ持続的に得られる可能性があります。

3.2 治療中断のリスク軽減

タイトレーション療法では、甲状腺ホルモン濃度の変動が大きい場合、症状が悪化して治療を中断するリスクが高まります。一方、ブロック補充療法では、補充ホルモンによりこのリスクを軽減できるとされています[2]。

3.3 長期的な寛解率

一部の研究では、ブロック補充療法がタイトレーション療法と比較して、寛解率に大きな差がないか、わずかに高い結果が示されています[3]。

ブロック補充療法の問題点

4.1 副作用のリスク

抗甲状腺薬の副作用(肝障害、白血球減少症など)は、タイトレーション療法と同様に生じる可能性があります。加えて、補充ホルモンの過剰投与による副作用が加わるリスクもあります。

4.2 投薬の複雑さ

ブロック補充療法では、2種類の薬を併用するため、服薬スケジュールが複雑になり、患者様の治療アドヒアランス(治療継続率)が低下する恐れがあります。

4.3 寛解の可能性が減少する

ブロック補充療法の最も大きな問題点の一つは、甲状腺の自然寛解の機会を奪う可能性があることです。通常、メチマゾール単独治療を行った場合、数年から十数年後にはバセドウ病が寛解し、メチマゾールを中止できるケースがあります。しかし、最初からブロック補充療法を使用すると、甲状腺機能を完全に抑制して補充ホルモンに依存するため、こうした自然寛解の機会が失われる可能性があります。

このため、当クリニックでは、できる限りメチマゾール単独での治療を目指し、患者様の症状を慎重に観察しながら治療方針を決定します。自然寛解の可能性を考慮し、長期的な視点で患者様の利益を最大化する治療を提供します。

4.4 コストの増加

ブロック補充療法では2種類の薬剤を継続的に使用するため、医療費が増加し、患者様にとって経済的負担が大きくなる場合があります。

当院でのサポート

 

ブロック補充療法は、甲状腺ホルモン濃度を安定させる点で効果的な治療法ですが、自然寛解の可能性を失うリスクがあることや、副作用やコストの面で課題があります。当院では、患者様一人ひとりに最適な治療法を選択するため、症状を慎重に観察しながら、まずはメチマゾール単独での治療を目指します。また、患者様の不安や疑問に寄り添いながら、長期的な視点での治療方針を提案いたします。

バセドウ病の治療についてお悩みの方は、ぜひ当院にご相談ください。最適な治療法を一緒に見つけ、健康的な生活をサポートしてまいります。


参考文献

  1. Cooper DS. "Antithyroid drugs in the management of patients with Graves' disease: an evidence-based approach." Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2003.
  2. Bartalena L, et al. "Treatment of Graves’ hyperthyroidism: current perspectives and future prospects." Nature Reviews Endocrinology, 2019.
  3. Abraham P, et al. "Block-replace versus titration regimes of antithyroid drugs for Graves' hyperthyroidism: A systematic review and meta-analysis." Thyroid, 2005.

院長プロフィール
山田朋英(Tomohide Yamada)
蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニック 院長

  • 学歴: 東京大学大学院博士課程修了(医学博士)
  • 専門分野: 糖尿病、甲状腺疾患、内分泌疾患

当院では、最新の知見と患者様の希望を基に最適な治療を提供しています。お気軽にご相談ください。

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