免疫チェックポイント阻害薬と糖尿病の関係について

免疫チェックポイント阻害薬とは何か

免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors: ICIs)は、がん免疫療法の一種であり、T細胞の免疫応答を活性化させることで、がん細胞の排除を促進します。代表的な薬剤には、

抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ、ニボルマブ)

抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ、デュルバルマブ)

抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)

があります。これらは悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がんなどにおいて大きな治療効果をもたらしてきました。

しかしながら、これらの薬剤は免疫系を活性化しすぎることで、自己免疫反応を誘発することがあり、その結果、内分泌系の副作用として糖尿病を引き起こすことが知られています。

免疫チェックポイント阻害薬と糖尿病の関係

ICIsによる糖尿病は、"ICI関連糖尿病(ICI-induced diabetes)" として報告され、劇症1型糖尿病に類似した経過をとることが多く、以下のような特徴があります。

  • 発症は急性(数日〜数週間)

  • 初期症状は口渇、多飲、多尿、倦怠感、急激な体重減少

  • 血糖値が著しく高く、ケトアシドーシスを伴うことがある

  • HbA1cは比較的低めでも血糖値が高い場合あり

  • 多くの場合、インスリン分泌が完全に消失

2020年のJAMA Oncolの報告では、ICIs治療を受けた患者の約0.9%が新規発症の糖尿病を呈し、その多くが1型糖尿病に類似した経過をたどったとされています(Wang DY, et al. JAMA Oncol. 2020;6(3):435-442)。

最近の学会ガイドラインと安全性への配慮

日本内分泌学会および日本糖尿病学会では、免疫チェックポイント阻害薬による自己免疫性内分泌障害(糖尿病を含む)に関する注意喚起がなされており、以下のようなポイントが示されています:

  • 治療開始前に血糖値とHbA1cのベースライン確認

  • 治療中は定期的な血糖モニタリング(少なくとも毎週)

  • 血糖上昇時は早期に内分泌専門医と連携

  • ケトアシドーシス症状(悪心、嘔吐、腹痛、過呼吸、意識障害)に注意

特に、糖尿病の家族歴がある患者や、もともと耐糖能に異常のある患者においては、より注意深い観察が推奨されています。

参考文献:

  • 日本糖尿病学会「がん免疫療法による糖尿病の注意点」2021年改訂版

  • Hughes J, et al. Diabetes Care. 2019;42(5):e77-e79.

新規性と独自性 ─ 早期診断・治療が鍵

免疫チェックポイント阻害薬による糖尿病は、従来の1型糖尿病と異なり、発症の予測が難しいという課題があります。そのため、新たな取り組みとして以下のような研究が進められています:

  • GAD抗体、IA-2抗体、ZnT8抗体などの自己抗体測定による発症予測

  • HLA型との関連解析(特にDR4との関連)

  • 発症予測アルゴリズムの構築

また、ICI糖尿病患者の大半はインスリン依存となるため、診断後すぐの血糖管理が極めて重要です。発症初期における迅速な対応こそが、生命予後を大きく左右します。

一部の報告では、発症からケトアシドーシスに至るまでの時間が72時間以内であるケースも確認されており(Kotwal A, et al. Endocr Pract. 2021;27(2):134-141)、「発熱」「倦怠感」「口渇」などの一見軽微な症状に注意を払うことが求められます。

当院でのサポート

 

当院では、がん治療を受けている患者さまに対し、以下のようなサポート体制を整えています。

  • 治療前のスクリーニング:血糖値・HbA1c・尿ケトン体・自己抗体の測定

  • 定期的なモニタリング:治療中の毎週または隔週での血糖・尿検査

  • 急変時の対応:ケトアシドーシスの兆候に迅速に対応する24時間サポート体制

  • がん専門医との連携:治療方針を共有し、糖尿病の安全な管理を実現

  • インスリン導入支援:自己注射の指導、継続的血糖モニタリング(CGM)対応

また、患者さん一人ひとりに合わせた生活指導・栄養指導も行い、「がん治療中でも安心して糖尿病と向き合える」環境づくりを進めています。


監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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