妊娠中に使用可能な甲状腺薬について

妊娠と甲状腺疾患 ─ ホルモンバランスの重要な関係

妊娠中は、胎児の発育に関わるホルモンバランスが大きく変化します。特に甲状腺ホルモンは、胎児の神経系や脳の発達に不可欠であり、母体と胎児の双方にとって非常に重要です。妊娠により甲状腺刺激ホルモン(TSH)や甲状腺ホルモン(T3、T4)の分泌が変化することが知られており、甲状腺疾患を持つ女性では特に注意が必要です。

妊娠中に甲状腺機能異常があると、早産、流産、胎児発育遅延、妊娠高血圧症候群、胎児の神経発達異常などのリスクが増大します(Alexander EK et al., 2017, NEJM)。そのため、妊娠前からの管理、または妊娠初期からの適切な診断と治療が非常に重要とされています。

妊娠中に使用可能な甲状腺薬 ─ 種類と時期による選択

1. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)の治療薬

プロピルチオウラシル(PTU / 商品名:プロパジール)
  • 使用時期:妊娠初期(妊娠4週~15週)に推奨される

  • 催奇形性がメチマゾール(MMI)より低いとされ、初期はPTUが第一選択薬

  • 注意点:肝機能障害のリスクがあるため中期以降は切り替えを考慮

メチマゾール(MMI / 商品名:メルカゾール)
  • 使用時期:妊娠中期(16週以降)から使用可能

  • 妊娠初期に使用すると、臍帯ヘルニア、食道閉鎖、無胎児症などの催奇形リスクが報告されている(Barbesino G, Endocr Pract. 2013)

2. 甲状腺機能低下症(橋本病など)の治療薬

レボチロキシンナトリウム(LT4 / 商品名:チラーヂンSなど)
  • 妊娠中を通じて安全に使用できる

  • 胎児の神経発達に必要なホルモンを補充するため、妊娠中も治療継続が必須

  • 妊娠判明後、LT4は20~30%増量が必要となる場合がある(Stagnaro-Green A, Thyroid, 2011)

最新のガイドラインと国際的な推奨

  • 日本甲状腺学会、日本内分泌学会、米国甲状腺学会(ATA)のガイドラインでは、以下のように推奨されています:

    • 妊娠初期はPTUが推奨

    • 妊娠中期以降はMMIへの切り替えを考慮

    • TSHの目標値は妊娠時期ごとに異なる(例:妊娠初期はTSH < 2.5 µIU/mL)

    • FT4(遊離サイロキシン)は trimester-specific range を参考に評価

これらの方針は、母体と胎児の安全性を最大限に確保しつつ、疾患の進行を抑制する目的で策定されています。

薬の使用における安全性とモニタリング

甲状腺薬は胎盤を通過するため、用量と時期を厳密に調整する必要があります。

  • PTUの副作用:肝障害、白血球減少

  • MMIの副作用:胎児奇形(妊娠初期)

  • LT4の副作用:基本的に少ないが、過剰投与は母体の動悸や不眠の原因となる

モニタリング項目

  • 4~6週間ごとのTSH/FT4チェック

  • 肝機能、白血球数の定期検査(PTU使用時)

  • 胎児の発育状況や超音波検査による甲状腺サイズのチェック(必要に応じて)

当院でのサポート

 

当院では、妊娠を希望される方や妊娠中の甲状腺疾患患者様に対して、以下のような包括的サポートを提供しています:

  • ✅ 妊娠計画中からの薬剤見直しと最適化

  • ✅ 産婦人科との密な連携による母体・胎児の管理

  • ✅ 妊娠中期以降の薬剤調整と頻回なホルモンモニタリング

  • ✅ 必要に応じた紹介状、母子手帳記載支援、妊娠高リスク管理

  • ✅ 妊娠後も継続できる外来通院スケジュールの工夫

甲状腺ホルモンの管理は、妊娠の予後や胎児発育に直結します。妊娠中でも安心して治療を継続していただけるよう、専門医が責任をもってサポートいたします。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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