甲状腺患者さんのうがい薬について:安全な選び方と注意点

甲状腺とヨウ素 ─ なぜうがい薬が問題になるのか

うがい薬は風邪予防や口腔衛生のために多くの人に使用されていますが、甲状腺疾患の患者さんにとっては注意が必要な場合があります。特に「ポビドンヨード(例:イソジン)」を含むうがい薬は、体内のヨウ素量を増加させることにより、甲状腺機能に影響を与える可能性があります。

なぜヨウ素が重要なのか

ヨウ素は甲状腺ホルモン(T3、T4)の材料であり、適量の摂取は必要不可欠です。しかし、過剰摂取は甲状腺機能低下症や亢進症(特にバセドウ病、橋本病など)を誘発・悪化させるリスクがあります。

学会の見解(ガイドライン)

日本甲状腺学会や米国甲状腺学会(ATA)は、甲状腺疾患を持つ患者に対してヨウ素含有製品の使用を控えるよう勧告しています(ATA Guidelines, 2016)。



ヨウ素を含むうがい薬の影響 ─ 科学的データに基づく理解

近年の研究では、ポビドンヨードを含むうがい薬を日常的に使用している人において、甲状腺ホルモンの変動がみられることが報告されています。特に日本では、ヨウ素摂取量がもともと高いため、追加摂取による影響が顕著に出やすいとされています。

論文データの紹介

  • Nagata et al., 2015(日本内分泌学会誌):うがい薬を使用することで尿中ヨウ素排泄量が4〜5倍に増加。

  • Okamura et al., 2012(Thyroid Research):ポビドンヨードによる一過性のTSH上昇例が多数報告。

これらのデータは、特に橋本病の患者にとってヨウ素過剰が甲状腺機能低下症を悪化させる要因となることを示しています。

甲状腺疾患の種類別に見る影響と対応

甲状腺疾患は様々なタイプがあり、それぞれヨウ素への反応が異なります。

バセドウ病

ヨウ素過剰により一時的にホルモン合成が抑制されることがありますが、長期的には甲状腺の不安定性を増すこともあります。

橋本病(慢性甲状腺炎)

慢性的な甲状腺機能低下に移行するリスクがあり、ヨウ素過剰が症状悪化の引き金となることが多いです。

無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎

一時的な機能異常が主体であるため、ヨウ素の影響は限定的ですが、過剰摂取は避けるのが望ましいです。

うがい薬選びと代替策 ─ 安全性を第一に

使用すべきでないうがい薬

  • ポビドンヨード系(例:イソジン、ヨードうがい薬)

  • 市販のヨウ素配合のどスプレー

推奨される代替品

  • 塩化セチルピリジニウム(CPC)系:ヨウ素を含まず、殺菌効果がある

  • グリチルリチン酸やキシリトール配合の低刺激製品

  • 水や生理食塩水によるうがい

新規性・独自性

当院では「甲状腺疾患と市販薬の関係」についても詳細な問診・指導を行っており、患者さんの生活に即した製品の選び方をお伝えしています。

当院でのサポート

 

当院では、甲状腺疾患の診療とあわせて、日常生活での注意点についても丁寧にサポートしています。

  • 生活指導:ヨウ素含有製品(食事、うがい薬、外用薬など)についての個別アドバイス

  • 連携体制:薬剤師・歯科医師と連携し、うがい薬の変更や指導を実施

  • 院内資料の配布:市販製品の成分チェックリストをお渡し

  • LINE相談やInstagramでも情報発信中

甲状腺疾患は“見えにくい”病気ですが、少しの工夫と知識で症状を悪化させずに過ごすことができます。当院は患者さんの「安心・安全な生活」のために、細やかな医療と情報提供を続けてまいります。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

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