甲状腺とヨウ素の関係 ─ なぜ海藻に注意が必要なのか?

甲状腺は、体の代謝を調整するホルモン(T3・T4)を分泌する重要な臓器です。そしてこのホルモンの原料が「ヨウ素(ヨード)」です。ヨウ素は、海藻類──特に昆布、のり、わかめ、ひじきなどに多く含まれています。
日本人は世界でも有数のヨウ素摂取量を誇る食文化を持ち、健康な方にとってはそれが問題になることはほとんどありません。しかし、甲状腺疾患を抱える方にとっては、過剰なヨウ素摂取が病態を悪化させることがあります。
日本内分泌学会ガイドラインの見解
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橋本病(慢性甲状腺炎)や甲状腺機能低下症の患者では、ヨウ素過剰が病気の悪化やホルモン産生障害を招く可能性があるとされています(日本内分泌学会ガイドライン2023)。
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バセドウ病の治療中の患者においても、急激なヨウ素摂取はホルモンバランスを不安定にするため注意が必要です。
文献:Suzuki H et al. Excess iodine intake and thyroid diseases. Endocr J. 2020.
海藻に含まれるヨウ素の量とは?
ヨウ素含有量は食品によって大きく異なります。以下に代表的な食品のヨウ素含有量(可食部100gあたり)を示します:
食品 | ヨウ素量(µg) |
---|---|
昆布(乾燥) | 240,000 |
昆布だし | 1,000 |
ひじき(乾燥) | 29,000 |
焼きのり | 2,100 |
わかめ(生) | 440 |
※参考:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
1日の推奨摂取量と上限
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成人のヨウ素推奨摂取量:130µg/日(厚労省)
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安全上限量:3,000µg/日
つまり、昆布やひじきを日常的に大量摂取することは、容易に上限を超える可能性があります。
甲状腺疾患とヨウ素の関係──症例とリスク
1. 橋本病(慢性甲状腺炎)
慢性的な甲状腺の炎症により機能が低下していく自己免疫疾患。過剰なヨウ素摂取は炎症を悪化させる可能性があります。
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論文:"Iodine intake and Hashimoto's thyroiditis: an update"(Endocrinology and Metabolism, 2020)
2. バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
ヨウ素の影響を受けやすく、一部の患者ではヨウ素の過剰がホルモン暴走(甲状腺クリーゼ)を引き起こすことも。
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抗甲状腺薬服用中の患者では、ヨウ素の変動によって治療反応性が変化。
3. 無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎
一時的に甲状腺ホルモンが放出される病態で、過剰なヨウ素摂取が症状を悪化させるケースも報告されています。
安全な摂取量とは?──どのくらいならOK?

推奨される摂取ガイドライン(甲状腺疾患のある方)
食品 | 摂取の目安 |
昆布(乾燥) | 週に1回以下、5g未満 |
昆布だし | 毎日使用可(薄めて) |
焼きのり | 1日1〜2枚まで |
わかめ(味噌汁の具) | 1日1回程度 |
注意点:
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健康食品やサプリメントに含まれるヨウ素にも注意。
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うがい薬(例:イソジン)にもヨウ素が含まれるため、使用頻度に注意。
新規性と独自性
近年では「ヨウ素過剰による潜在性甲状腺機能異常」という概念が注目されており、自覚症状がなくてもTSHの異常などが生じている例が多数報告されています。 (出典:Laurberg P, Thyroid. 2022)
当院でのサポート

当院では、甲状腺疾患を持つ患者さん一人ひとりに合わせた食事指導・生活指導を行っています。
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栄養士と連携し、海藻類の摂取頻度や量の指導を具体的に実施。
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血液検査の定期フォローにより、ヨウ素摂取の影響をTSH、FT3、FT4などで継続的に評価。
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うがい薬や健康食品の成分確認を一緒に行い、安心して治療を受けていただけるようサポート。
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患者向け資料や、LINE・SNSなどでの情報配信も実施。
患者様が「何をどのくらい食べてよいのか」が明確になるよう、医師・スタッフ一丸でサポートしています。安心してご相談ください。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。