甲状腺疾患と体温調節の異常:寒がりやすいのは甲状腺の影響かも?

はじめに:甲状腺と体温調節の関係とは?

甲状腺は、首の前方に位置し、体全体の代謝やエネルギー消費を調節する甲状腺ホルモンを分泌する重要な器官です。このホルモンが正常に分泌されることで、私たちの体は適切にエネルギーを消費し、体温を一定に保つことができます。

しかし、甲状腺の機能が低下したり、過剰に働くと、体温調節がうまくいかず、寒がりや暑がりといった症状が現れやすくなります。特に、寒がりやすい、体が冷えやすいといった症状が続く場合は、甲状腺ホルモンの異常が関与している可能性があります。

本記事では、甲状腺疾患が体温調節に与える影響や、その症状、そして効果的な対処法について詳しく解説します。体温調節の異常が続く方は、甲状腺の検査を受けることで、原因を明らかにし、適切な治療を受けることが重要です。

甲状腺の病気があると汗をかきやすいの?

甲状腺ホルモンの役割と体温調節の関係

甲状腺ホルモン(T3、T4)は、体全体の細胞に影響を与え、エネルギーを消費し、体温を一定に保つ役割を担っています。甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、体温調節機能がうまく働かず、さまざまな不調が現れます。

  • 基礎代謝と体温調節
    甲状腺ホルモンは、基礎代謝を調整し、体がエネルギーをどのように消費するかをコントロールします。このホルモンが不足すると、基礎代謝が低下し、体温が下がりやすくなります。反対に、ホルモンが過剰に分泌されると、基礎代謝が亢進し、体温が上昇しやすくなります。

  • 寒がりと甲状腺機能低下症
    甲状腺ホルモンが不足すると、エネルギー消費が低下し、体温を維持することが難しくなります。その結果、寒さを感じやすくなり、手足の冷えや全身の冷えを感じることが多くなります。また、体温調節がうまくいかないため、外気温に敏感になり、寒冷環境での活動がつらく感じることもあります。

  • 暑がりと甲状腺機能亢進症
    甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、エネルギーが過度に消費され、体温が上昇しやすくなります。その結果、汗をかきやすく、少しの暑さでも不快感を感じることがあります。また、体の熱をうまく発散できず、夜間に体温が上がりすぎて眠りにくくなることもあります。

甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、これらの体温調節の異常が生じやすくなります。特に、長期間にわたって寒さや暑さに過敏になる場合は、甲状腺の検査を受けることをおすすめします。

厚生労働省 - 甲状腺の病気に関する情報

日本甲状腺学会 - 甲状腺疾患について

日本内分泌学会 - 甲状腺疾患について

甲状腺機能低下症と寒がりの具体的な症状

甲状腺機能低下症(橋本病など)は、甲状腺ホルモンの分泌が不足することで、全身の代謝が低下し、寒さに対する耐性が低下します。以下に、甲状腺機能低下症が引き起こす寒がりの具体的な症状を挙げます。

  • 全身の冷えと倦怠感
    体全体が冷え、特に手足の末端が冷たく感じられることがあります。倦怠感や疲労感を伴い、活動するのが億劫に感じることが多いです。

  • 朝起きたときの体温低下
    甲状腺機能が低下すると、夜間に体温が十分に保たれず、朝起きたときに体が冷え切っていると感じることがあります。この状態は、甲状腺ホルモンの不足が原因で、体が十分にエネルギーを産生できていないことを示しています。

  • むくみや皮膚の乾燥
    甲状腺ホルモンの低下は、体内の水分代謝にも影響を与え、むくみが生じやすくなります。また、皮膚が乾燥しやすくなり、寒さに対する防御力が低下します。これにより、さらに寒さを感じやすくなります。

  • 体重増加
    代謝が低下し、エネルギー消費が減少するため、食事量が変わらなくても体重が増加することがあります。体重増加と冷えが同時に見られる場合は、甲状腺の機能低下が疑われます。

これらの症状が続く場合、甲状腺機能低下症の可能性があるため、早期に専門医の診察を受け、適切な治療を行うことが重要です。

甲状腺機能亢進症と体温調節異常の症状

甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、体温が上昇しやすくなります。以下に、甲状腺機能亢進症が引き起こす体温調節異常の具体的な症状を紹介します。

  • 過剰な発汗と暑がり
    甲状腺ホルモンの過剰分泌により、基礎代謝が亢進し、体内でのエネルギー消費が急激に増加します。その結果、体温が上昇しやすく、汗をかきやすくなります。特に、少しの運動や軽い活動でも大量の汗をかき、暑さに耐えられないと感じることがあります。

  • 心拍数の増加と動悸
    甲状腺ホルモンの影響で、心臓の働きが過剰に活発化し、心拍数が増加します。そのため、動悸や息切れを感じやすく、軽い運動でも体温が急上昇しやすくなります。これにより、暑がりの症状がさらに悪化することがあります。

  • 不眠や寝汗
    体温が高くなると、夜間の睡眠にも影響を与えます。寝汗をかきやすく、夜中に何度も目が覚めることがあるため、十分な睡眠が取れず、日中に疲労感やだるさを感じることがあります。

  • 体重減少と筋肉の疲労感
    代謝が過剰に活発になることで、体脂肪が急速に燃焼され、体重が減少します。また、筋肉もエネルギーを多く消費し、疲労感や筋肉痛を感じることがあります。これにより、暑がりの症状が強まり、体温調節がさらに難しくなります。

甲状腺機能亢進症による体温調節異常は、適切な治療を行うことで改善されます。これらの症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、検査と診断を受けることをおすすめします。

 甲状腺疾患による体温調節異常の対処法

 

甲状腺疾患による体温調節異常は、適切な治療と生活習慣の見直しによって改善が期待できます。以下に、効果的な対処法をいくつかご紹介します。

  • ホルモン補充療法の実施
    甲状腺機能低下症の場合、ホルモン補充療法(チラーヂンなど)を行うことで、体温調節機能が改善されます。医師の指導のもと、適切な量を服用し、定期的に血液検査でホルモン値を確認しながら治療を続けます。

  • 生活習慣の見直し
    適度な運動やバランスの取れた食事を心がけることで、代謝を正常に保ち、体温調節機能を向上させます。また、寒さを感じやすい方は、温かい衣服を着用し、体温を保つ工夫をしましょう。逆に暑がりやすい方は、冷房の調整や水分補給を心がけ、体温を適切にコントロールすることが大切です。

  • ストレス管理
    ストレスは甲状腺機能に悪影響を与えることがあります。日常生活でのストレスを減らし、リラックスできる時間を持つことで、体温調節機能の改善に繋がります。深呼吸や瞑想、趣味に没頭する時間を取り入れましょう。

  • 医師の指導に基づく治療計画の実施
    医師の指導のもと、適切な治療計画を実施することが重要です。甲状腺ホルモンのバランスを正常に保つことで、体温調節機能の異常を改善し、生活の質を向上させることができます。定期的な受診と検査を行い、治療計画を適切に調整していきましょう。

これらの対処法を取り入れることで、甲状腺疾患による体温調節異常を改善し、快適な日常生活を取り戻すことができます。

 

監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患の診断と治療を提供しています。

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