甲状腺眼症の新たな治療薬「テプロツムマブ(テッペーザ)」について

甲状腺眼症とは?その特徴と課題

甲状腺眼症(Graves' orbitopathy, Thyroid eye disease:TED)は、主にバセドウ病(甲状腺機能亢進症)に伴って発症する自己免疫疾患であり、眼の突出(眼球突出)、眼瞼腫脹、複視、視力障害などの症状を引き起こします。

この病気は、眼窩(目の奥)にある筋肉や脂肪組織が炎症によって腫れ、線維化することで生じます。特に重症例では、視神経の圧迫や角膜障害など、失明につながることもあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。

従来はステロイドや放射線治療、外科的治療などが中心でしたが、根本的な治療ではなく、また副作用も多いため、新たな治療選択肢の登場が望まれていました。

テプロツムマブ(Teprotumumab:商品名Tepezza)とは?

テプロツムマブは、2020年に米国FDAにより甲状腺眼症の治療薬として承認された新薬です。これは、インスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)に対するヒトモノクローナル抗体であり、TEDの病態に深く関与している自己免疫の活性化経路を阻害します。

作用機序

IGF-1Rは、眼窩内の線維芽細胞に発現しており、自己抗体による刺激で炎症や線維化が進行します。テプロツムマブはこの受容体をブロックすることで、眼窩内の炎症を抑え、眼球突出などの症状を改善します。

臨床試験

  • OPTIC試験(Smith TJ et al., N Engl J Med 2020)では、テプロツムマブ群の83%で眼球突出が2mm以上改善し、プラセボ群では10%に留まりました。

  • 同試験での複視改善率も69%(テプロツムマブ群)と有意な改善が確認されました。

承認状況

日本国内では2024年に承認されたばかりですが、アメリカ、欧州を中心にTED治療の第一選択薬として注目されています。

新規性と安全性 ─ 既存治療との違い

新規性

  • TEDの原因に対する初の分子標的治療薬

  • 8週間ごとの点滴投与(全8回)で長期的改善が期待

  • ステロイド無効例にも有効

安全性

OPTIC試験で確認された主な副作用は以下の通り:

  • 筋痙攣(9%)

  • 吐き気(8%)

  • 血糖上昇(特に糖尿病患者に注意)

  • 難聴(少数報告あり)

全体としては重篤な副作用の頻度は低く、治療効果の持続性も高いことが評価されています(Douglas RS, et al. Ophthalmology. 2020)。

早期診断と治療の意義、数字で見る甲状腺眼症

TEDは発症初期では診断が難しく、「眼が疲れる」「まぶたが重い」などの症状から始まり、気づかれにくい病気です。

早期治療の意義

  • 炎症期(6ヶ月〜2年)を逃すと線維化し治療抵抗性となる

  • テプロツムマブは炎症期に最も効果を発揮

数字データ

  • TED発症率:バセドウ病患者の25〜50%が発症(Bartalena L, 2016)

  • 重症TED:約5%(視神経障害や強い複視など)

  • 日本ではTEDの認知度が低く、受診遅延がしばしば起こる

当院でのサポート

 

当院では、甲状腺眼症に対する早期診断と専門的治療の提供を行っております。以下のような支援体制を整えています:

  • エコー・血液検査による迅速診断:FT3・FT4・TSH・TRAbを含めた総合評価を実施

  • 眼科専門医との連携:眼球突出、視神経障害の評価に精通した医師と協働

  • 最新情報の提供:海外での新薬(テプロツムマブ)についての最新知見を共有

  • 必要時、治験施設や専門病院への紹介:テプロツムマブを含めた最先端治療を希望される方へ適切な紹介体制あり

甲状腺眼症は、見た目だけでなく生活の質(QOL)にも大きな影響を与える病気です。私たちは「見える変化」と「見えないつらさ」の両面に寄り添い、患者様一人ひとりに最適な治療を提案します。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

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