自己抗体(サイログロブリン抗体[TgAb]、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体[TPO抗体])が陰性の橋本病について

橋本病とは

橋本病(慢性甲状腺炎)は、甲状腺に慢性的な炎症を引き起こす自己免疫性疾患で、最終的に甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの不足)を引き起こすことが多い疾患です。自己免疫反応によって甲状腺細胞が破壊されることで機能低下が進行します。

橋本病の診断には、甲状腺自己抗体であるサイログロブリン抗体(TgAb)や甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)の陽性が一般的に重要視されます。しかし、これらの抗体が陰性の場合でも臨床症状や甲状腺機能の低下が確認されれば橋本病と診断されることがあります。
甲状腺機能低下症(橋本病)

自己抗体陰性の橋本病

TgAbやTPO抗体が陰性であっても、橋本病の診断が下される場合があります。このようなケースは比較的まれであり、診断には他の検査や臨床情報が重要となります。

考えられる原因

  1. 抗体検出感度の限界
    一部の抗体は現在の検査方法では低濃度のため検出されない場合があります。
  2. 別の自己抗体や因子の関与
    TgAbやTPO抗体が陰性でも、他の未知の自己抗体や免疫因子が甲状腺組織に対して攻撃を行っている可能性があります。
  3. 病初期または病状の進行
    病初期では抗体が産生されていない場合や、病状が進行して抗体価が低下している場合もあります。
  4. 非典型的な病態
    遺伝的背景や環境因子が強く関与している可能性があります。たとえば、特定のHLA遺伝子型を持つ患者では異なる免疫応答が引き起こされることがあります。

疫学情報と診断のポイント

• 橋本病は甲状腺機能低下症の最も一般的な原因であり、人口の約1~2%に見られるとされています[1]。
• 日本では特に女性に多く、男女比は約1:8とされ、30~50代で発症率が高い[2]。
• TgAbやTPO抗体が陰性のケースは、全体の5~10%程度とされています[3]。
• 遺伝的要因と環境要因(たとえば、ヨウ素摂取量や喫煙)が橋本病の発症に関与していると考えられています。

TgAbやTPO抗体が陰性である場合でも、以下の情報を基に橋本病の診断が行われます。

臨床症状

  • 初期症状: 疲労感、寒がり、体重増加、便秘、皮膚乾燥、むくみ、抑うつなど。
  • 進行症状: 甲状腺腫(腫大)や甲状腺の硬化が触診で確認される場合があります。

血液検査

  • TSH(甲状腺刺激ホルモン)の上昇
    TSHの高値は甲状腺機能低下を示唆します。
  • 甲状腺ホルモン(FT3、FT4)の低値
    甲状腺機能の低下が進行するとFT4やFT3が低下します。

画像診断

  • 甲状腺超音波検査
    甲状腺のエコーで腺の異常(低エコー域、腫大、線維化)を確認します。

その他の補助検査

  • サイログロブリン(Tg)や甲状腺細胞の壊死を示す指標の測定も参考となります。

治療法

自己抗体陰性の橋本病の治療は、抗体陽性の場合と同様です。治療は主に甲状腺ホルモン補充療法を中心に行われます。

甲状腺ホルモン補充療法

  • レボチロキシン(LT4)を使用して、甲状腺ホルモンの不足を補います。
  • 治療の目標は、TSHを正常範囲に戻し、症状を改善することです。

定期的なモニタリング

  • 血液検査でTSH、FT3、FT4の値を定期的に測定します。
  • 初期治療後、患者の状態に応じて薬剤の量を調整します。

生活習慣の指導

  • バランスの取れた食事、適度な運動、ストレスの管理が推奨されます。
  • 必要に応じてヨウ素の摂取量を調整します。

当院でのサポート

 

当院では、自己抗体陰性の橋本病を含む甲状腺疾患の診断と治療を専門的に行っています。

  • 詳細な診断プロセス
    血液検査、甲状腺超音波検査、患者様の症状や病歴を総合的に評価します。
  • 患者中心の治療方針
    患者様一人ひとりのライフスタイルやニーズに合わせた治療プランを提案します。
  • 継続的なフォローアップ
    定期的な検査と診察を通じて治療効果を確認し、必要に応じて治療方針を見直します。
  • 最新医療の提供
    国内外の最新研究に基づき、最善の治療を提供します。

参考文献

  1. Vanderpump MPJ, et al. "The epidemiology of thyroid diseases." Thyroid International, 2010.
  2. Hollowell JG, et al. "Serum TSH, T4, and thyroid antibodies in the United States population." Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2002.
  3. Kasagi K, et al. "Thyroid ultrasonography and antibodies in the diagnosis of Hashimoto's thyroiditis." Endocrine Journal, 1996.

院長プロフィール

山田朋英(Tomohide Yamada)
蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニック 院長

  • 学歴: 東京大学大学院博士課程修了(医学博士)
  • 職歴:
    • 英国マンチェスター大学・キングスカレッジロンドン 客員教授
    • 糖尿病および甲状腺疾患の専門医として19年以上の臨床経験
  • 受賞歴: 国内外での研究成果に基づく数々の賞
  • 専門分野: 糖尿病、甲状腺疾患、内分泌疾患に関する診療および研究
  • 趣味: 仕事

当院では、甲状腺疾患や糖尿病を中心に患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供しております。お気軽にご相談ください。

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