週1回型インスリンとは
週1回型インスリン製剤は、従来の1日1回の持効型インスリンに代わる新しい治療選択肢として注目されている持続作用型インスリン製剤です。従来の製剤と比較して投与頻度が大幅に減ることで、患者の治療負担軽減やアドヒアランス(治療継続率)の向上が期待されています。
現在、臨床試験を経て承認された製剤として、イデグリラルチド(Icodec)などが挙げられます。この新しいインスリンは、患者にとって利便性を高める一方で、従来の治療法との効果や安全性の比較が注目されています。2024年12月現在日本ではまだ処方できません。
コラム 最近の吸入型インスリン製剤について を追加しました。
週1回型インスリンの特徴と利点
作用メカニズム
週1回型インスリン製剤は、分子構造の改良によってインスリンの分解が遅くなり、持続的に一定の血中濃度を維持できるように設計されています[1]。これにより、患者は週1回の投与のみで、24時間血糖値を安定的にコントロールできます。
利点
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投与頻度の削減
従来の1日1回の持効型インスリンに比べ、週1回の投与で済むため、患者の負担が大幅に軽減されます。 -
治療アドヒアランスの向上
投与頻度が少ないことで、特に忙しい生活を送る患者や高齢者において治療継続率の向上が期待されます。 -
血糖コントロールの安定性
持続的な作用により、1日の血糖変動が少なくなる可能性があります。 -
低血糖リスクの軽減
一部の臨床試験では、低血糖の発生率が従来の製剤よりも低いことが示唆されています[2]。
臨床試験の成果
有効性
臨床試験(ONWARDSプログラムなど)では、週1回型インスリン製剤が従来の1日1回型持効型インスリン(例:デグルデクやグラルギン)と同等以上の血糖コントロール効果を示すことが確認されています[3]。HbA1cの目標達成率も従来製剤と同程度であることが報告されています。
安全性
- 低血糖リスク
臨床試験では、夜間低血糖の発生率が低いことが示されています。 - 体重増加
一部の患者で体重増加が報告されていますが、従来の製剤との差は小さいとされています。
患者満足度
投与回数の減少により、患者の満足度が向上し、生活の質(QOL)の向上も確認されています[4]。
課題と注意点
長期的な安全性
週1回型インスリン製剤は比較的新しい治療法であり、長期的な安全性データが不足しています。特に以下の点に注目が必要です:
- 長期使用による抗体形成のリスク。
- 極端な血糖コントロール不良が発生する可能性。
投与ミスのリスク
週1回のスケジュールを忘れてしまうと、血糖コントロールが大きく乱れるリスクがあるため、患者への適切な指導が重要です。
コスト
週1回型インスリン製剤は新薬であり、従来の持効型インスリンと比較して価格が高くなる可能性があります。
適応患者の選定
肺機能に影響を与える吸入型インスリンとは異なり、週1回型インスリンは広範な患者に適応できるとされていますが、腎機能障害や肝機能障害を有する患者には注意が必要です。
日本国内での状況
週1回型インスリン製剤は現在日本では承認されていませんが、海外での臨床試験データや実用化の進展を踏まえ、数年以内に導入が見込まれています。日本国内での導入に向けた課題として、以下が挙げられます:
- 医療費抑制の観点からの価格設定。
- 保険適用範囲の拡大。
- 医療従事者への教育と普及活動。
参考文献
- Rosenstock J, et al. "Once-weekly insulin for type 2 diabetes without previous insulin treatment." New England Journal of Medicine, 2021.
- Heise T, et al. "Safety and efficacy of weekly insulin icodec versus daily basal insulin in type 2 diabetes." Diabetes Care, 2021.
- Lingvay I, et al. "Clinical outcomes with once-weekly basal insulin icodec in insulin-naïve patients with type 2 diabetes." Diabetes Care, 2022.
- Mathieu C, et al. "ONWARDS clinical trial results for weekly insulin icodec." Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2022.
院長プロフィール
山田朋英(Tomohide Yamada)
蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニック 院長
- 学歴: 東京大学大学院博士課程修了(医学博士)
- 職歴:
- 英国マンチェスター大学・キングスカレッジロンドン 客員教授
- 糖尿病および甲状腺疾患の専門医として19年以上の臨床経験
- 受賞歴: 国内外での研究成果に基づく数々の賞
- 専門分野: 糖尿病、甲状腺疾患、内分泌疾患に関する診療および研究
- 趣味: 仕事
当院では、糖尿病治療における最新技術と研究を患者様に提供し、日常生活をより快適に過ごせるようサポートしております。お気軽にご相談ください。