2024年改訂・日本高血圧学会ガイドラインの要点解説

高血圧の定義と分類の見直し

2024年に改訂された「日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン(JSH 2024)」は、高血圧診療の指針として重要な転換点を迎えました。高血圧の定義に関する基本的な考え方は維持しつつも、家庭血圧の位置づけやリスク層別化、ライフステージごとのアプローチが強調されました。

定義と分類の主な改訂点

  • 診察室血圧の基準:140/90 mmHg以上を高血圧とする基準は従来通り。

  • 家庭血圧の基準:135/85 mmHg以上が高血圧と診断される(JSH 2024)[1]。

  • 仮面高血圧や白衣高血圧の位置づけが明確化され、早期診断の意義が強調されました。

リスク分類の進化

2024年版では、高血圧そのものだけでなく、

  • 動脈硬化性疾患リスク

  • 糖尿病、CKDなどの合併症の有無

  • 喫煙歴や脂質異常症の併存 といった複合リスクを総合的に評価し、治療の強度を判断する「リスク層別化」がより重要視されています。

新規性と独自性

  • ライフステージ別のアプローチ(若年、中高年、高齢者)

  • 時間帯別血圧変動に注目した24時間血圧管理の推奨

治療目標と介入のタイミング

治療目標値の明確化

  • 一般成人:診察室血圧 130/80 mmHg未満

  • 高齢者:診察室血圧 140/90 mmHg未満(75歳以上を目安)

  • 糖尿病・腎疾患合併例:125/75〜130/80 mmHg未満を目標に[1]

高血圧治療の介入基準

家庭血圧が135/85 mmHgを超える場合、まずは生活習慣の見直しを推奨。その後、3〜6ヶ月経過しても改善が見られない場合や、高リスク患者では即薬物治療が勧められます。

安全性の観点

  • 過度な降圧による脳低灌流や起立性低血圧のリスクに留意

  • 降圧剤の副作用や多剤併用時の相互作用にも注意

数字で見る効果

  • 収縮期血圧を10mmHg低下させることで、脳卒中リスクが40%、冠動脈疾患リスクが25%低下(JSH 2024より)[1]

生活習慣改善の重視と非薬物療法

ガイドラインでは薬物療法に先立ち、生活習慣の改善が治療の柱とされています。

推奨される生活習慣改善

  1. 減塩:食塩摂取量6g未満/日を推奨(日本人平均は約10g)[2]

  2. 体重管理:BMI25未満を目標

  3. 有酸素運動:週に150分以上の中等度運動(例:早歩き)

  4. 節酒:男性20〜30g未満、女性10〜20g未満のアルコール量を目安に

  5. 禁煙:必須事項として明記

DASH食の推奨

  • 果物、野菜、低脂肪乳製品を中心とした食事が血圧を有意に下げるとされ、DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食が改めて推奨されています[3]。

非薬物療法のエビデンス

  • DASH食:収縮期血圧が平均5.5〜11.4mmHg低下[3]

  • 運動療法:有酸素運動で平均収縮期血圧が4〜9mmHg低下[4]

個別化医療と高血圧治療の進化

個別化医療の実践

  • 若年者と高齢者では降圧目標や用いる薬剤が異なる

  • 睡眠時無呼吸症候群(OSA)、CKD、糖尿病などに対応した多角的治療

高齢者の降圧治療の安全性

  • 高齢者では、起立性低血圧に配慮しつつ、緩やかな降圧が勧められます。

  • 75歳以上でも積極的に治療を行うことで、心血管イベントの予防が期待されます(SPRINT研究など)[5]

新薬と治療戦略

  • ARB/CCBの合剤、SGLT2阻害薬の高血圧への応用

  • 治療抵抗性高血圧への新アプローチ(例:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)

治療の個別最適化

  • 24時間血圧測定(ABPM)による「夜間高血圧」の検出

  • 朝高血圧、早朝高血圧への対応強化

当院でのサポート

 

当院では、最新ガイドラインに基づき、地域の皆様が安心して高血圧治療を受けられる体制を整えています。

1. 家庭血圧支援と早期発見

  • 血圧計の選定と正しい使い方の指導

  • 家庭血圧手帳やアプリでの管理サポート

  • 仮面高血圧、白衣高血圧の見極めと24時間血圧測定導入

2. 生活習慣改善プログラム

  • 専門医による食事指導で減塩・体重管理

  • 糖尿病や脂質異常症との包括的指導

  • 個別運動プランの提供

3. 専門医による高度な治療

  • 薬物療法の個別最適化

  • CKDや糖尿病合併例の特殊対応

  • 定期フォローアップによる安全な管理

4. 多職種連携と安心のフォロー

  • ご家族との情報共有による包括的なサポート

  • オンライン診療による継続治療の提供


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(JSH 2024). 2024.
[2] He FJ, MacGregor GA. A comprehensive review on salt and health and current experience of worldwide salt reduction programmes. J Hum Hypertens. 2009;23(6):363–384.
[3] Sacks FM, et al. Effects on blood pressure of reduced dietary sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) diet. N Engl J Med. 2001;344(1):3–10.
[4] Cornelissen VA, Fagard RH. Effects of endurance training on blood pressure, blood pressure-regulating mechanisms, and cardiovascular risk factors. Hypertension. 2005;46(4):667–675.
[5] SPRINT Research Group. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015;373:2103–2116.

 

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