バセドウ病患者に見られる特有の顔つき

バセドウ病とは

バセドウ病とは甲状腺からは、新陳代謝を高めたり、組織の成長を促進したりする甲状腺ホルモンが分泌されます。バセドウ病は自己免疫疾患(自己の組織に免疫が生じること)の1つで、甲状腺機能亢進症とも呼ばれます。バセドウ病の主な症状は自己免疫による甲状腺ホルモンの過剰分泌であり、その結果、新陳代謝が過剰に活発になり、甲状腺の腫脹や、多汗、頻脈、動悸、疲労感、体重減少、手の震え、息切れなどの症状が起きます。

そして、バセドウ病の特徴的な症状として、顔つきの変化があります。特に、目に現れる変化が顕著で、「甲状腺眼症(バセドウ病眼症)」と呼ばれます。これは、甲状腺ホルモンの過剰分泌と目の炎症との2つの原因から生じ、両方とも自己免疫に起因します。なお、甲状腺眼症はバセドウ病の患者全員に生じるわけではなく、全体の約25〜50%に起きると言われています。

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バセドウ病による顔つきの変化

眼球突出

眼球突出バセドウ病の患者の特徴的な症状として、眼球突出、つまり目が出る(あるいは、目が飛び出す)ようになります。

自己免疫が原因で眼球の後方の組織に炎症が生じ、①炎症部分が腫れること、あるいは②眼球周りの脂肪が増えること、のいずれかまたは両方の影響によって、眼球が前へ押し出されることにより眼球が突出します。

しかし、上述したように、バセドウ病の患者全員に眼球突出が生じるわけではなく、臨床的に明らかな眼球突出は、患者全体の約10%です。

上眼瞼後退

バセドウ病では、上眼瞼(上まぶた)が後退することがあり、主に以下の2つの原因によります。

甲状腺ホルモンの異常

バセドウ病の発症初期に、過剰分泌された甲状腺ホルモンがまぶた(特に上まぶた)を動かす平滑筋を刺激して収縮させるため、上まぶたが吊り上がったようになることがあります。このような過剰分泌された甲状腺ホルモンが原因になるのは約3割です。

まぶたを動かす筋肉の炎症

バセドウ病による上眼瞼症状の約7割は、まぶたを動かす筋肉に炎症が起きることが原因です。メカニズムが甲状腺ホルモンと関係ないため、甲状腺ホルモン投与では症状が改善しません。

また、炎症による上眼瞼後退が強い場合、上述した眼球突出がなくても、みかけ上眼球が突出しているように見えます。

斜視、眼球運動障害など

斜視、眼球運動障害など眼球の後方にあって、眼球の向きを変える機能を有する筋肉は、総称して「外眼筋」と呼ばれます。自己免疫によって外眼筋に炎症が生じると、眼球運動に障害が起き、左右の目の方向がずれる斜視という症状が起きることがあります。

また、顔つきに見られる症状として、「逆さまつげ」や「まぶたの腫れ」があります。どちらも自己免疫によって目の組織が炎症を起こすことが原因です。

眼球突出や眼瞼後退に付随して、ものが二重に見える複視、眼精疲労、ドライアイなどの症状も起きます。なかでも、視力低下などの症状は視神経の障害によって起きるため、速やかに治療することが必要です。

眼の症状の治療方法

眼の症状は、それぞれ症状が生じる原因によって異なる治療が行われます。

1.甲状腺ホルモンの過剰分泌によって生じる症状

例:上眼瞼後退の一部など

甲状腺ホルモンの分泌を抑える抗甲状腺薬による治療によって甲状腺ホルモンの過剰分泌が改善すれば、次第に治まってきます。

 

2.炎症が関係している症状

例:眼球突出、上眼瞼後退の一部、斜視や眼球運動障害など

抗甲状腺薬だけで治療するのは難しいと考えられます。
特に、一旦眼球突出が生じると、正常に戻すのが困難なため、バセドウ病であることをいち早く見つけ、早期治療をすることが重要です。

また、外眼筋の炎症によって、斜視、眼球運動障害、複視などが生じた場合、治療方法として「ステロイドパルス療法」などが行われます。

炎症による眼の症状の治療

甲状腺眼症の検査や治療は、眼科医と甲状腺専門医が協力しながら進めます。バセドウ病の治療を受けている病院に眼科がない時、甲状腺眼症をよく知る眼科医を、バセドウ病の治療をしている医師から紹介してもらいましょう。

甲状腺眼症は、喫煙によって悪化します。バセドウ病の治療においても禁煙することは大切ですが、特に眼に症状のある方は、すぐにでも禁煙してください。

眼の症状は治療すれば改善の可能性がありますが、完全に治癒する場合は多くありません。
以下に、現在行われている治療方法について紹介しますが、最近、米国で甲状腺眼症の新たな治療薬が承認されました。日本でも治験が始まっていますので、近い将来、新たな治療法が開発されることも期待できます。

(1)ステロイドパルス療法と放射線外照射療法の併用

外眼筋に炎症が起きている場合、炎症を抑制するために「ステロイドパルス療法」を行います。これは、所定量のステロイドを3日間点滴するのを1クールとし、1〜3クール行う方法です。

炎症の再発を防ぐため「放射線外照射療法」と併用する場合が多く、「ステロイドパルス療法」を行った後、放射線を照射します。これらは、炎症の強い急性期に行う方が効果が高いと考えられています。適切なタイミングで、適切な治療を選択することが重要ですので、担当の医師とよく話し合いましょう。

(2)外科的手術

眼球にかかる圧力を下げるために「眼窩減圧術」という外科的手術を行うことがあります。眼球突出などに対し、眼球後方の骨を削ることで腫大した組織や増大した脂肪の入るスペースを作り、後方からの圧力を下げてまぶたを閉じやすくします。

また、眼瞼手術や斜視手術などの手術を行うことがありますが、これらは炎症の強い急性期ではなく、症状が安定した後の慢性期に行われます。

バセドウ病の初期症状に注意しましょう

バセドウ病になると新陳代謝が過剰になるため、安静時でも身体的に活動している状態になっています。
そのため初期症状として、下記のような症状が起きる場合があります。

部位 症状
全身 暑がりになる。疲労しやすくなる。体がだるくなる。
短期間に体重が変動するようになる。37.5度前後の微熱が続く。
神経・精神 イライラしやすくなる。落ち着きがなくなる。
集中力がなくなる。寝付きが悪くなる。
循環器 むくみが生じる。動悸がする。息切れしやすくなる。
頻脈が起きる(脈が速くなる)。血圧が上昇する。
消化器 口や喉が渇くようになる。食欲が増加または低下する。
排便の回数が増加する。軟便になる。
皮膚 多量の汗をかくようになる。髪の毛の抜け毛が増える。
皮膚の色が黒くなる。かゆみが生じる。
筋骨 筋力の低下が感じられる。体に力が入らなくなる。
手足や指が震えるようになる。
月経 月経不順になったり、月経がなくなったりする。
血液 コレステロール値が低下する。血糖値が上昇する。
肝機能を示すマーカーの値が悪化する。
顔つき・首 目つきがきつくなる。眼球が飛び出たようになる。
ものが二重に見える。甲状腺が腫大する。首の腫れやしこりが生じる。

性別や年代によって症状には違いがあります。例えば、男性の場合、手足の痺れ、動悸、体重減少などを自覚できることが多く、女性の場合、指の震え、だるさ、首の腫れ、動悸などを感じることが多いとされます。若者の場合、首の腫れを自覚することが多いようですが、高齢者の場合、首の腫れは気にならないことも多いです。

バセドウ病の初期症状を自覚しないこともあります

バセドウ病の初期症状について具体的に説明しましたが、このような初期症状に気づきにくい人もいます。 眼球突出のように目で見て明らかな症状の人はそれほど多くなく、その他の初期症状は軽いこともあるからです。

初期症状が軽い場合バセドウ病とは思わず、原因不明の体調不良が続いていることに悩む人もいますし、風邪や更年期障害などからきているものと間違える人もいます。あるいは、自覚症状がなく、健康診断や人間ドックで初めてバセドウ病の可能性を示唆される場合もあります。

監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性
日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

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