ヨウ素とは?
ヨウ素は、わかめや昆布、のりなどの海藻類に主に含まれるミネラルで、「ヨード」とも呼ばれます。
ヨウ素は、甲状腺ホルモンの原料になります。日本は、各国と比較してもヨウ素摂取量が多い国です。ヨウ素を含む食材は体調を整えるのに良いと考えられており、様々な健康食品に含有され、昆布を主な原料とした食品も多数作られています。
なお、過剰摂取はかえって健康面に悪影響を及ぼします。必要量は、1日0.095〜0.13mg、昆布で例えると40~60mg相当とされています。
※「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」より
ヨウ素が甲状腺ホルモンを合成する
甲状腺ホルモンの合成にはヨウ素が必要です。
体内に入ったヨウ素は甲状腺に吸収され、甲状腺ホルモンが作られます。甲状腺ホルモンは、新陳代謝を調整する働きを担います。子どもの成長には、成長ホルモンと甲状腺ホルモンが深く関与しており、ヨウ素が不足すると成長に影響を及ぼします。
ヨウ素を過剰に摂取するとどうなる?
ヨウ素を過剰摂取した場合、甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症に繋がる恐れがあります。
なお、日本においてはヨウ素の過剰摂取によって甲状腺機能亢進症が起こったという報告は少ないです。ヨウ素は甲状腺ホルモンを合成するのに必要な栄養素なので、過剰摂取するとホルモンが多く分泌されると考えるのが普通ですが、実際は過剰摂取したヨウ素は甲状腺の働きを低下させてしまうのです。
甲状腺に異常が起きていない方がヨウ素を過剰摂取しても甲状腺機能低下症になる可能性は低いですが、甲状腺に異常がある方がヨウ素を過剰摂取した場合、甲状腺機能低下症を発症するリスクが高いです。甲状腺異常とは具体的に、甲状腺炎、放射性ヨウ素治療または甲状腺の手術歴があり、甲状腺が縮小しているなどの状態を指します。
ヨウ素を必要以上に摂取してしまうケースとしては、イソジンうがい薬®(ポビドンヨード製剤)を使って毎日うがいをしている、根昆布療法を行っている場合などが考えられます。また、バセドウ病治療薬として甲状腺薬(チウラジール®やメルカゾール®など)を服用しているお客様がヨウ素を過剰摂取すると、甲状腺機能にさらに影響を及ぼすことがありますが、普段の食事でヨウ素を制限することはしなくて大丈夫です。
医学的治療後に起こる甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は医学的治療が原因で起こることもあります。例えば、バセドウ病や甲状腺腫瘍の治療が挙げられます。
バセドウ病で放射線ヨウ素治療を実施することがありますが、およそ半分以上の方に甲状腺機能低下症が認められます。なお、甲状腺機能低下症が起きたとしても、甲状腺ホルモン剤の内服治療を行えば、甲状腺機能が低下することはありません。
甲状腺を全摘出する手術を行った場合、ほぼ100%の確率で甲状腺機能低下症を起こします。また、このケースでは甲状腺機能低下症は生涯にわたって続きます。甲状腺疾患の他にも、頭部や頸部に発生したリンパ腫や悪性腫瘍の治療として放射線外照射療法を実施すると、甲状腺機能低下症を起こすことがあり、数ヶ月~数十年続きます。
また、薬剤性の甲状腺機能低下症もあり、抗甲状腺薬の過剰服用がリスクとなります。例えば、バセドウ病の治療期間中に減薬のタイミングが遅れてしまった場合、無痛甲状腺炎をバセドウ病と誤診されて抗甲状腺薬を使用した場合などが原因となります。他にも、躁うつ病で使用されるリチウム薬も、副作用として甲状腺機能低下症を招くことがあります。
ただし、こうしたお薬の副作用として起こる甲状腺機能低下症は、一時的なものであることが多く、休薬することで改善が見込まれます。
バセドウ病・橋本病とヨウ素
バセドウ病とヨウ素
ヨウ素が欠乏している地域でヨウ素を過剰摂取すると、ヨウ素誘発性機能亢進症(甲状腺機能亢進賞の一種)が起きると言われており、バセドウ病のお客様はヨウ素の過剰摂取を控えることが必要です。日本は土壌中のヨウ素が豊富な国で、通常量を摂取しているだけなら問題ありません。なお、アイソトープ(放射性ヨウ素)検査前などは一時摂取を制限して頂くこともあり、その際は担当医が丁寧に説明いたします。
橋本病とヨウ素
ヨウ素を豊富に含む昆布類などを過剰摂取した場合、甲状腺が全体的に大きく腫れ、甲状腺機能が低下する橋本病を発症することがあります。ヨウ素の摂取量を制限することで改善します。
ヨウ素を多く含む食品とは
ヨウ素を豊富に含む食品としては、昆布やもずく、のり、めかぶなどの海藻類、ヨード卵、寒天などが挙げられます。このようによく食卓に並ぶ食材にヨウ素は含まれているため、日本人は他国の方に比べてヨウ素の摂取量が多い傾向にあります。また、うがい薬にもヨウ素が含まれているものもあります。
ヨウ素は甲状腺ホルモンを合成するのに必要な栄養素なので、過剰摂取するとホルモンが多く分泌されると考えるのが普通ですが、実際は過剰摂取したヨウ素は甲状腺の働きを低下させてしまうのです。そのため、橋本病のお客様がヨウ素を過剰摂取してしまった場合、甲状腺が全体的に腫れてしまったり、甲状腺機能低下症を招いたりするリスクがあります。なお、ヨウ素の摂取量を制限することで改善します。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
- 日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。