TSH(甲状腺刺激ホルモン)の検査
ホルモンと呼ばれる物質は、全身の様々な部分で産生されていますが、なかでも甲状腺は非常に重要な臓器です。甲状腺は脳の下垂体から出された甲状腺刺激ホルモン(TSH)を受けて、トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)を放出します。この2つの甲状腺ホルモンは全身の代謝に関与します。
T3やT4は血中でタンパク質と結びつくのですが、ホルモンの機能を発揮するのは、結びつかなかった遊離トリヨードサイロニン(FT3)と遊離サイロキシン(FT4)です。
甲状腺の検査では、血中のTSH、FT3、FT4などを確認します。単位はそれぞれ、TSHがμIU/ml(マイクロ・国際単位・パー・ミリリットル)、FT3がpg/ml(ピコグラム・パー・ミリリットル)、FT4がng/ml(ナノグラム・パー・ミリリットル)です。これらの数値が基準値より高い、あるいは低い場合、3種類のうち、どの数値が高いか(または低いか)関連を確認して、甲状腺疾患の判断材料とします。
通常、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の低下は甲状腺機能亢進症を示唆するものですが、私の約20年にわたる臨床経験から、必ずしもそれだけで甲状腺機能亢進症と断定することはできません。サプリメントの摂取やウイルス感染などが原因で、一時的にTSH値が低下することもあります。そのため、患者の症状や病歴、他の血液検査の結果を総合的に評価し、慎重に判断する必要があります。正確な診断と適切な治療を行うために、詳細な問診や必要に応じた追加の検査を行い、最適な医療を提供するよう努めています。また、当院では原則として、当日約30分から40分程度で結果が出るよう機器をそろえております。
甲状腺疾患で血液検査を行う理由
前触れもなく、甲状腺疾患の症状が出ることがあります。前述のように、甲状腺は脳(下垂体)からの指令を受けて、血中にホルモンを放出する作用があります。この指令によりホルモンを多く産生・放出することもあれば、指令がなくなり放出量を減らすこともあります。この仕組みにより、血中のホルモン量は一定に保たれます。しかし、甲状腺に何らかの異常や病気が起きるとホルモン量は変化すると考えられます。この変化は血液検査を行うことで知ることが可能になります。
血液中には甲状腺ホルモンの他に、甲状腺に指令を出す甲状腺刺激ホルモンも存在します。つまり、血液検査を行うことで両方のホルモンの様子を確認できるのです。
TSHだけが低い場合
バセドウ病の疑いがある
甲状腺疾患を診断する血液検査の1つにホルモン検査があります。
甲状腺では、トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)という2種類のホルモンが産生されます。その作用は、トリヨードサイロニンの方が強いと言われています。肝臓や腎臓でサイロキシンからトリヨードサイロニンへ変えられます。また、血中ではタンパク質と結びついた形で存在します。そのうち、タンパク質と結合しなかったわずか一部の遊離タイプが全身に働きかけるのです。
血液検査では、この2種類について調べます。脳から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が出され、これが受容体と結びつくことにより、トリヨードサイロニンとサイロキシンの合成と放出が始まります。そして、血中に放出されたこの2つのホルモンはTSHを抑える働きをします。この仕組みをネガティブ・フィードバックと呼びます。この仕組みによって、ホルモン量を一定に保つことが可能となります。
実際の血液検査では、トリヨードサイロニンとサイロキシン、TSHの値を確認します。もしTSHだけが基準値より低い場合、バセドウ病の可能性が考えられます。症状だけで判断せず、血液検査を行い客観的な裏付けを求めることが必要です。
バセドウ病とは?
バセドウ病は、過度に甲状腺ホルモンを作り出す疾患(甲状腺機能亢進症)としてよく知られています。
バセドウ病は自己免疫疾患の一種です。自己免疫疾患とは、本来ならウイルスや細菌などから身体を守る働きをする免疫が、自分自身の細胞や器官を攻撃してしまう病気全般を指します。下垂体から出た甲状腺刺激ホルモン(TSH)が、甲状腺ろ胞細胞にあるTSH受容体に信号を送ることにより甲状腺ホルモンは放出されます。バセドウ病は、体内でTSH受容体への抗体が作られることにより、持続してTSH受容体に信号を送り続け、過剰な甲状腺ホルモンが放出されることで起こる疾患です。
現時点では、TSH受容体への抗体が作られる原因は不明ですが、バセドウ病を発症しやすい体質の方に、強いストレスがかかる、何らかのウイルス感染が起きる、また妊娠・出産などが契機となり起こる可能性が考えられています。
甲状腺機能検査から推定される甲状腺疾患
甲状腺疾患 | TSH | FT4 | FT3 | 必要な検査など |
---|---|---|---|---|
バセドウ病 | ↓ | ↑ | ↑ | TSAb(甲状腺刺激抗体)、 TRAb(抗TSHレセプター抗体)、 放射性ヨウ素摂取率高値 |
中毒性結節 (プランマー病) |
↓ | ↑ | ↑ | 超音波検査(結節性甲状腺腫)、 シンチグラフィー |
無痛性甲状腺炎、 亜急性甲状腺炎 |
↓ | ↑ | ↑ | TSAb(陰性)、 TRAb(陰性)、 CRP(C反応性蛋白)、 摂取率低値 |
潜在性甲状腺機能亢進症 | ↓ | → | → | TSAb、TRAb |
原発性甲状腺機能低下症 (橋本病など) |
↑ | ↓→ | ↓→ | TPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)、 TgAb(抗サイログロブリン抗体) |
潜在性甲状腺機能低下症 | ↑ | → | → | TPOAb、 TgAb |
中枢性甲状腺機能低下症 | ↓→ | ↓ | ↓→ | TRH負荷試験、 MRI |
不適切TSH分泌症候群 (SITSH) |
↑→ | ↑ | ↑ | T3受容体遺伝子、 TRH負荷試験、 下垂体MRI |
低T3症候群 | ↑→↓ | → | ↓ | 基礎疾患あり |
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。