チロキシンとは

チロキシンって何?

チロキシン(T4)は、甲状腺から分泌されるホルモンの一つで、体の代謝を調整する役割を担っています。甲状腺は首の前面に位置する小さな臓器であり、代謝やエネルギーバランスの調整を行うための重要なホルモンを生成しています。チロキシンは、もう一つの甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)と共に、体の細胞がエネルギーを利用する際に必要な代謝を促進します。
 
チロキシンの役割
チロキシンは、体のさまざまなシステムに影響を与え、以下のような重要な役割を果たします。
- 代謝の調整:チロキシンは、体の基礎代謝率を調整し、エネルギーを生成するプロセスを促進します。これにより、体温を維持し、内臓や筋肉の機能をサポートします。
- 成長と発達の促進:特に子どもの成長や骨の発育に重要な役割を果たします。また、胎児期において脳の発達に不可欠です。
- 心臓の健康維持:チロキシンは心拍数を調整し、心臓が正常に機能するために必要なエネルギー供給を確保します。
- 神経系の調整:チロキシンは、神経系の機能にも影響を与え、脳の発達や神経伝達の調整を助けます。
 
チロキシンは体内で生成された後、トリヨードサイロニン(T3)に変換され、細胞レベルでの作用を発揮します。T4は比較的安定しているため、血中で長時間存在し、必要に応じてT3に変換されて体内で使われます。
たとえるなら、チロキシンは「体の中のエンジンオイル」のようなもので、これがうまく循環することで体全体がスムーズに動くのです。

チロキシンが足りなくなるとどうなるの?

チロキシンが不足する状態を甲状腺機能低下症と呼びます。甲状腺ホルモンの不足は、体全体の代謝を低下させ、さまざまな身体的・精神的な症状を引き起こします。
 
1. 疲労感や無気力
チロキシンが不足すると、体のエネルギー生成が低下するため、慢性的な疲労感や無気力を感じることが多くなります。日常の活動が負担に感じられ、集中力の低下ややる気の喪失が見られることもあります。
 
2. 体重増加
代謝が低下すると、体が消費するエネルギーが少なくなり、体重が増えることがあります。食事量が変わらなくても、体重が増加するのは甲状腺ホルモンの不足が原因である可能性があります。
 
3. 寒がり
甲状腺ホルモンは体温調節にも関与しているため、不足すると寒さに敏感になり、手足が冷えやすくなります。特に寒い季節や冷房の効いた環境で体が冷えやすくなることが特徴です。
 
4. 皮膚や髪のトラブル
チロキシンの不足は、皮膚や髪にも影響を与えます。皮膚が乾燥しやすくなり、かゆみやひび割れを引き起こすことがあります。また、髪の毛が抜けやすくなり、薄毛になることもあります。
 
5. 気分の落ち込みやうつ症状
チロキシンの不足は精神的な状態にも影響を及ぼし、気分の落ち込みやうつ症状を引き起こすことがあります。思考の遅れや集中力の低下、不安感なども見られることがあり、心理的な健康にも悪影響を及ぼします。
 
これらの症状が続く場合、甲状腺機能低下症が原因である可能性が高いため、早めに医師に相談し、適切な検査を受けることが重要です。

チロキシンが多すぎるとどうなるの?

チロキシンが過剰に分泌される状態を甲状腺機能亢進症と呼びます。これは、体の代謝が異常に活発になる状態で、さまざまな症状を引き起こします。代表的な疾患として、バセドウ病が挙げられます。
 
1. 動悸や心拍数の増加
チロキシンの過剰分泌は心臓に大きな負担をかけ、心拍数が増加します。動悸を感じたり、息切れがしやすくなることがあります。また、安静時でも心臓が速く鼓動していることに気づくことがあります。
 
2. 体重減少
代謝が急激に活発になるため、食事量が変わらなくても体重が減少することがあります。特に、食欲があるにもかかわらず体重が落ちる場合、甲状腺ホルモンの過剰が疑われます。
 
3. イライラや不安感
甲状腺ホルモンは神経系にも影響を与えるため、ホルモンの過剰は精神的な不安定を引き起こすことがあります。イライラしやすくなったり、不安感が強くなったりすることがあります。
 
4. 暑がりや発汗
チロキシンが多すぎると、体温調節がうまくいかなくなり、暑がりになったり、過剰に汗をかいたりします。特に、気温が高くない状況でも体が熱く感じることがあります。
 
5. 筋力低下
代謝が過剰に活発になることで、筋肉の分解が進み、筋力低下や体力の減少が見られることがあります。日常の動作が疲れやすくなったり、力が入らないと感じることがあります。
 
甲状腺機能亢進症の症状は放置すると、心臓や骨にも深刻な影響を与える可能性があるため、早期に診断し、治療を開始することが重要です。


たとえるなら、エンジンオイルが多すぎると車が暴走してしまうように、チロキシンが多すぎると体が休むことなくエネルギーを使い続けてしまうのです。

チロキシンの治療について

チロキシンの異常分泌に対しては、甲状腺機能を正常に保つための治療が行われます。治療は、チロキシンが不足している場合と過剰である場合で異なり、個々の患者に合わせた治療計画が必要です。
 
1. 甲状腺機能低下症に対する治療
チロキシンが不足している場合、ホルモン補充療法が行われます。これは、合成チロキシン(レボチロキシン)を服用し、甲状腺ホルモンの不足を補う治療法です。ホルモン補充療法は、甲状腺ホルモンのバランスを保つために長期間にわたって継続的に行われることが多く、定期的な血液検査でホルモンレベルを確認しながら治療を調整します。
 
2. 甲状腺機能亢進症に対する治療
チロキシンが過剰に分泌されている場合、甲状腺ホルモンの生成を抑えるための治療が行われます。抗甲状腺薬を服用することで、甲状腺の働きを抑制し、ホルモンの分泌を正常範囲に戻します。また、放射性ヨウ素療法や手術によって、甲状腺の一
部を除去し、ホルモンの生成量を調整することもあります。
 
3. 治療中の注意点
甲状腺ホルモンの治療は、定期的なフォローアップが不可欠です。特に、ホルモン補充療法や抗甲状腺薬を服用している場合、血液検査で甲状腺ホルモンのレベルを定期的にモニタリングし、適切な投薬量を維持することが重要です。また、生活習慣やストレスが甲状腺に影響を与えることもあるため、医師の指導に従って生活を整えることが大切です。

当院でのサポート

 

当院では、甲状腺機能に異常を抱える患者様に対して、専門的な診療と治療を提供しています。チロキシンの異常により引き起こされる甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症に対する包括的な治療を行い、患者様が健康を維持できるようサポートいたします。
 
1. 専門的な診断と検査
甲状腺ホルモンの異常は、血液検査によって確認されます。当院では、最新の検査技術を用いて、甲状腺ホルモン(T3、T4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)のレベルを正確に測定し、甲状腺の状態を把握します。検査結果に基づき、個別にカスタマイズされた治療プランを提案いたします。当院では、当日30分から40分で甲状腺ホルモンの結果が出る検査機器を導入しております。合わせて原則として当日に甲状腺超音波検査ができる体制を整えております。
 
2. オーダーメイドの治療プラン
チロキシンの異常に対する治療は、患者様一人ひとりの症状やライフスタイルに合わせて調整されます。当院では、抗甲状腺薬やホルモン補充療法など、最適な治療法を選び、症状の改善を目指します。また、定期的なフォローアップにより、治療の効果をモニタリングし、必要に応じて治療方針を調整いたします。
 
3. 長期的な健康管理
甲状腺の異常は、長期的な管理が必要です。当院では、患者様が安定したホルモンバランスを保ち、健康な生活を送れるよう、継続的なサポートを行います。甲状腺に関連する健康管理に不安を感じる場合は、ぜひ当院にご相談ください。
 
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まとめ
 
チロキシンは、体の代謝や成長、神経系の調整などに重要な役割を果たす甲状腺ホルモンです。チロキシンが不足すると甲状腺機能低下症が発症し、逆に過剰な場合には甲状腺機能亢進症が引き起こされます。これらの甲状腺機能異常は、適切な診断と治療によって管理することが可能です。
 
当院では、甲状腺機能に異常がある患者様に対し、専門的な治療と継続的なサポートを提供しています。チロキシンに関する疑問や不安がある方は、ぜひ当院にご相談ください。
 
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監修者プロフィール  
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)  
医学博士 (東京大学)
 
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
 
資格・専門性  
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医  
- 日本内科学会 総合内科専門医  
 
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
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