バセドウ病ってどんな病気?
バセドウ病を持っている方が妊娠を希望する場合、特別な注意が必要です。バセドウ病は、甲状腺が過剰に働く病気で、妊娠に影響を与えることがありますが、適切な治療と管理で安全な妊娠が可能です。このページでは、バセドウ病と妊娠についてわかりやすく説明します。
バセドウ病は、甲状腺が過剰にホルモンを分泌する自己免疫疾患で、甲状腺機能亢進症の一つです。甲状腺は首の前に位置する小さな臓器で、体の代謝を調整するホルモンを生成しています。バセドウ病では、免疫システムが誤って甲状腺を攻撃し、ホルモンの分泌が異常に活発になり、体の代謝が異常に高まるため、さまざまな症状が現れます。
主な症状としては、動悸、手の震え、体重減少、疲れやすさ、暑がり、眼球突出(甲状腺眼症)などが挙げられます。これらの症状は、甲状腺ホルモンが全身に過剰なエネルギーを送り込むために引き起こされます。
バセドウ病は20〜40代の女性に多く見られ、特に妊娠や出産を考えている女性にとっては特別な注意が必要な疾患です。妊娠前や妊娠中に適切な治療と管理を行うことが、母体と胎児の健康を守るために重要です。
バセドウ病と妊娠の影響
バセドウ病を抱えた状態で妊娠すると、母体と胎児の健康に影響を与えることがあります。妊娠中の甲状腺ホルモンのバランスは非常に重要であり、過剰なホルモンが体に影響を与えると、妊娠合併症のリスクが高まります。
妊娠中のリスク
- 流産や早産のリスク:バセドウ病が適切に管理されていない場合、流産や早産のリスクが高まることがあります。特に、妊娠初期に甲状腺ホルモンの過剰分泌があると、胎児の発育に影響を与える可能性があります。
- 妊娠高血圧症候群:バセドウ病が進行していると、妊娠中に高血圧になるリスクが増加します。妊娠高血圧症候群は、母体と胎児にとって深刻な合併症を引き起こす可能性があるため、慎重な管理が必要です。
- 胎児の甲状腺機能への影響:バセドウ病の抗体が胎盤を通じて胎児に伝わることがあり、胎児の甲状腺にも影響を与える可能性があります。これにより、胎児の甲状腺が異常に活性化し、胎児期や出生後に甲状腺機能に問題が生じることがあります。
妊娠中の症状の変化
バセドウ病の症状は、妊娠中に変化することがあります。妊娠初期には甲状腺ホルモンが増加することがありますが、妊娠中期以降には甲状腺機能が改善されることが多いです。ただし、産後には再発するリスクがあるため、妊娠中だけでなく、出産後の管理も重要です。
厚生労働省 - 甲状腺の病気に関する情報
日本甲状腺学会 - 甲状腺疾患について
日本内分泌学会 - 甲状腺疾患について
妊娠中の治療と管理
バセドウ病を抱えたまま妊娠する場合、妊娠中の治療と管理が母体と胎児の健康にとって非常に重要です。治療は、甲状腺ホルモンのバランスを適切に保ち、妊娠中の合併症を予防することを目的としています。
1. 抗甲状腺薬による治療
妊娠中でも安全に使用できる抗甲状腺薬を用いて、甲状腺ホルモンの分泌を抑制します。主に、プロピルチオウラシル(PTU)が妊娠初期に使用され、妊娠中期以降はメチマゾール(MMI)が使用されることが一般的です。これらの薬剤は、母体に対しても胎児に対しても安全性が高いとされていますが、用量や服用期間は慎重に調整されます。
2. 定期的な血液検査
妊娠中は、甲状腺ホルモンのレベルが変動しやすいため、定期的に血液検査を行い、ホルモンバランスを確認します。特に、妊娠初期や中期、産後には頻繁に検査が行われ、甲状腺機能が正常範囲内にあることを確認します。
3. 放射性ヨウ素療法の中止
妊娠中には、放射性ヨウ素療法を行うことはできません。放射性ヨウ素が胎盤を通過して胎児に影響を与える可能性があるため、妊娠中の女性には使用されません。妊娠を計画している女性や妊娠の可能性がある女性は、放射性ヨウ素治療を行う前に妊娠していないことを確認する必要があります。
4. 手術療法
薬剤療法が効かない場合や、副作用が問題となる場合、妊娠中に甲状腺摘出手術が検討されることがあります。ただし、手術は一般的に妊娠中期(16~24週)に行われることが推奨され、緊急時を除いて慎重に判断されます。手術が必要な場合、外部の総合病院に紹介しております。
妊娠を希望する場合の準備
バセドウ病を抱えていても、適切に管理されていれば安全に妊娠を計画することが可能です。ただし、妊娠を希望する場合は、いくつかの準備と注意が必要です。
1. 症状の安定
妊娠前にバセドウ病の症状を安定させることが最も重要です。甲状腺ホルモンのバランスが安定していないと、妊娠に伴うリスクが高まるため、まずは適切な治療を受けてホルモンレベルを正常範囲内に保つ必要があります。ホルモンのバランスが整ってから、妊娠を計画することが推奨されます。
2. 医師との相談
バセドウ病を抱えている場合、妊娠前に必ず専門医と相談し、妊娠中の治療計画を立てておくことが重要です。医師は、妊娠に伴うリスクや注意点、治療法について詳しく説明し、妊娠中の適切な管理についてアドバイスを行います。
3. 健康的なライフスタイル
妊娠を計画する際には、健康的なライフスタイルを維持することも重要です。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な休息を心がけることで、妊娠に向けた体の準備を整えます。また、ストレスを軽減するためのリラクゼーション方法やメンタルケアも取り入れると良いでしょう。
4. 家族のサポート
妊娠は女性にとって大きな変化を伴う出来事です。バセドウ病を抱えたまま妊娠する場合、家族やパートナーのサポートも大きな助けとなります。妊娠中に感じる不安や体調の変化について、周囲に理解を求めることで、安心して妊娠生活を送ることができます。
当院でのサポート
当院では、バセドウ病の患者様が妊娠を計画する段階から、妊娠中の管理、出産後のフォローアップまで、総合的なサポートを提供しています。母体と胎児の健康を守るために、専門的な治療と個別のケアを行い、安心して妊娠・出産を迎えられるよう支援しています。必要に応じて専門機関をご紹介します。
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まとめ
バセドウ病を抱えながらの妊娠は、適切な治療と管理を行うことで、母体と胎児に安全な妊娠・出産が可能です。妊娠前に症状を安定させ、妊娠中も医師の指導に従いながら治療を続けることが重要です。また、出産後も引き続き甲状腺の管理を行い、健康を維持することが必要です。特に産婦人科や新生児科との連携が重要です。バセドウ病と妊娠に関するお悩みや疑問がある方は、ぜひ当院にご相談ください。
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監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
- 日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。